青春の終わりに心から言える「ここに来てよかった!」
―精華女子吹奏楽部の最高の三年間―
やりきった少女たちの想いと物語
全日本マーチングコンテストの表彰式で、精華には金賞が与えられた。20回目の出場、20回金賞。全日本吹奏楽コンクールと合わせると、3年連続のダブル金賞。
プレッシャーをはねのけて、伝統をつないだ。
マーチングコンテストは7人の審査員が評価する。A・B・Cいずれかをつけられ、Aが過半数以上なら金賞、Cが過半数以上なら銅賞、それ以外が銀賞になる。精華は毎年オールAで金賞を獲得していた。だが、2018年度はオールAにはならなかった。
金賞ではあったが、そのことが部員たちにはショックだった。本当は喜びに湧くはずの大会後のミーティングでは、悲しみで涙する者が少なくなかった。
福岡に帰り、フユウは小川先生に大会の報告をしにいった。暗い表情のフユウに対し、小川先生はこう言った。
「映像で見たけど、よかったよ。結果に満足しきらんのかもしれんけど、自分たちの演奏・演技には後悔しとらんやろ?」
「はい」
「だったら、私は満足」
その言葉を聞き、フユウはようやく気持ちが晴れた。自分自身で目標にした「後悔しない」というコトバは達成できた。オールAではなかったけれど、自分たちでは満点の出来だったと思っている。
ふたつの大きな大会が終わった今、フユウは「後悔しない」というコトバを「後悔してない」にアップデートした。
2019年2月16・17日、精華女子高校吹奏楽部は福岡サンパレスホテル&ホールで定期演奏会を行った。
ミユ、「ミサト」こと生野みさと、モモコ、フユウら3年生はこの演奏会で引退することとなった。
福岡大学附属大濠高校に行かれなかったことをずっと引きずり続けていたモモコ。精華に入学するとき、密かに心に決めていたことがある。
「3年後の定期演奏会で引退するとき、絶対に『ここに来て良かった』って思えるようにしよ!」
山あり谷ありの3年間だった。ぶつかり合ったことも数え切れないほどある。それ以上にみんなで笑い、精華にしかできない音楽を奏でてきた。大阪城ホールでマーチングをするという目標を達成し、櫻内先生と一緒に名古屋でも金賞を獲得した。
自分たちの代でも、先輩たちと同じくらい大きな「華」を咲かせることができた。
29人の同期と過ごしてきた日々が、終わる。もう白いブレザーのステージ衣装や青ジャージに袖を通すこともない。今からでも時間を3年前に巻き戻したい、とモモコは思った。巻き戻したら、そのときはやっぱり精華を選びたい。この29人と、後輩たちを含めた150人と、もう一度吹奏楽をやりたい。
もう後ろめたさもなく、心から思える。
「ここに来て良かった!」
演奏会が終わり、ステージの上で眩しいライトを浴びる部員たちに満員の客席から惜しみない拍手が送られた。そして、笑顔、涙とともにモモコたち3年生の青春に、幕が下ろされた―
KEYWORDS:
著者:オザワ部長
現在、実際に演奏活動を行っている人だけでも国内に100万人以上。国民の10人に1人が経験者だと言われているのが吹奏楽です。国内のどの街を訪れても必ず学校で吹奏楽部が活動しており、吹奏楽団が存在しているのは、世界的に見ても日本くらいのものではないでしょうか。
そんな「吹奏楽大国」の日本でもっとも注目を集めているのは、高校の吹奏楽部です。
「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクール全国大会を目指す青春のサウンドには、多くの人が魅了され、感動の涙を流します。高校吹奏楽は、吹奏楽界の華と言ってもいいでしょう。
もちろん、プロをもうならせるような演奏を作り上げるためには日々の厳しい練習(楽しいこともたくさんありますが)をこなす必要があります。大人数ゆえに、人間関係の難しさもあります。そして、いよいよ心が折れそうになったとき、彼らを救ってくれる「コトバ」があります。
《謙虚の心 感謝の心 自信を持って生きなさい。》
《コツコツはカツコツだ》
《すべては「人」のために!》
それらのコトバは、尊敬する顧問が語ってくれたことだったり、両親や友人からの励ましだったり、部員みんなで決めたスローガンだったりします。
本書では、高校吹奏楽の頂点を目指して毎日ひたむきに努力しながら、彼らが胸に秘めている「コトバ」の数々を切り口にし、その青春の物語を引き出しました。すると、通常の取材とは少し違った物語「アナザーストーリー」が浮かび上がってきました。
ぜひ中高生から大人までが共感できる、純粋でまぶしい「コトバ」と「ストーリー」をお読みください。